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東京地方裁判所 平成11年(行ウ)220号 判決 2000年12月27日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、平成一〇年三月三〇日付けで原告に対してした別紙物件目録一及び二記載の土地に係る平成八年七月一日から平成九年六月三〇日までの土地の取得に対して課する特別土地保有税の課税標準額及び税額並びに不申告加算金額の各決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、葛飾区の区域内に合計面積一〇〇〇平方メートル以上の土地を取得した原告が、右取得に係る特別土地保有税の申告を行わなかったところ、被告から特別土地保有税の課税標準額及び税額並びに不申告加算金額の各決定処分を受けたことを不服として、その取消しを求めている事案である。

一  平成一〇年法律第二七号による改正前の地方税法(以下「法」という。)等の定め

1  土地の取得に対して課する特別土地保有税

土地の取得に対しては、当該土地所在の市町村において、当該土地の取得者に特別土地保有税を課するものと定められているが(法五八五条一項)、特別区の存する区域においては、都が特別土地保有税を課するものとされ、この場合には、都を市とみなして法第三章第八節の特別土地保有税に関する規定が準用される(法七三四条一項)。

2  免税点とその特例

特別土地保有税には免税点の制度が定められており、同一の者が当該市町村の区域(都の特別区にあっては当該特別区の区域)内において、一月一日又は七月一日を基準日として、基準日前の一年以内に取得した合計面積が所定の基準面積(都の特別区の区域においては二〇〇〇平方メートル)に満たない場合には、特別土地保有税を課することができないと規定されている(法五九五条一号、七三七条二項)。

そして、法附則三一条の四第二項は、都の特別区の存する区域等の三大都市圏の特定市における右免税点の特例を定め、平成三年度から平成一二年度までの各年度の初日の属する年の七月一日又は当該各年度の末日の属する年の一月一日(基準日)において、特定市の区城内に所在する土地で、当該土地の所在する一の市の区域(都の特別区の存する区域にあっては当該特別区の区域。同条一項。)内において同一の者が当該基準日前一年以内に取得した土地の合計面積が一〇〇〇平方メートル以上である土地の取得については、当該土地の所在する市(都の特別区の存する区域にあっては、都。同項。)において特別土地保有税を課するものとされている。

3  特別土地保有税の申告納付

土地の取得に対して課する特別土地保有税の納税義務者は、一月一日が基準日の場合はその年の二月末日までに、七月一日が基準日の場合はその年の八月三一日までに、当該特別土地保有税の課税標準額及び税額その他の自治省令で定める事項を記載した申告書を市町村長に提出するとともに、その申告した税額を納付しなければならないとされている(法五九九条一項二号、三号)。

4  特別土地保有税の決定及び不申告加算金

市町村長は、法五九九条一項の申告書を提出すべき者が当該申告書を提出しなかった場合には、その調査によって、申告すべき課税標準額及び税額を決定し(法六〇六条二項)、右決定があった場合には、申告書の提出期限までにその提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、決定により納付すべき税額に一〇〇分の一五の割合を乗じて計算した金額に相当する不申告加算金を徴収しなければならないと定められている(法六〇九条二項一号)。

5  特別土地保有税の非課税

法は、五八六条二項各号所定の土地の取得についての用途非課税など一定の非課税の制度を定めている(五八六条、五八七条)。

6  特別土地保有税の納税義務の免除

建物、構築物又は特定の施設のうち恒久的な利用に供するものとして定められた一定の基準に適合するものの用に供する土地で、当該市町村に係る土地利用基本計画、都市計画その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものであることについて、特別土地保有税審議会の議を経た上で、市町村長が認定した場合には、当該土地に係る特別土地保有税の徴収金に係る納税義務を免除するものとされているが(法六〇三条の二第一項、四項本文)、土地の取得者が、右免除認定を受けようとする場合には、法五九九条一項の納期限(納期限の延長があったときは、その延長された納期限)までに市町村長に対して免除認定の申請をしなければならないと定められている(法六〇三条の二第二項本文)。

このほかに、非課税土地として使用することや優良な宅地供給等とされる土地の譲渡について、市町村長がその事実の認定をした場合に、特別土地保有税の徴収を猶予し、一定期間内に右使用が開始されたことや右譲渡があったことにつき市町村長が確認したときは、右徴収猶予に係る税額の納税義務を免除するなどの免除の制度が定められている(法六〇一条ないし六〇三条)。

7  権限の委任

都においては、法七三四条一項により、前記3、4及び6の「市町村長」を「都知事」と読み替えることになるが、右都知事の権限は、法三条の二、東京都都税条例四条の三第一項により、都税の納税地所管の都税事務所長又は支庁長に委任されている。

二  争いがない事実

1  原告は、平成九年二月二八日、別紙物件目録一及び二記載の各土地(以下「本件土地」という。)を取得した。

2  被告は、同年七月下旬、原告に対し、平成八年七月一日から平成九年六月三〇日までの取得に係る特別土地保有税納付申告書(取得分)の用紙を送付し、右申告を促した。

3  被告は、同年九月四日、原告に対し、右申告を促す「特別土地保有税(取得分)の申告について」と題する文書を送付した。

4  被告は、同月一九日、葛飾都税事務所に来所した原告の事務担当者(A氏)に、再度申告書を提出するよう促した。

5  被告は、同年一一月四日、原告に対し、本件土地の特別土地保有税の申告を促す「特別土地保有税(取得分)の申告納付について」と題する文書を送付した。

6  被告は、平成一〇年三月三〇日、法六〇六条二項に基づき、本件土地の取得価額(四億八六五六万円)を申告すべき課税標準額とし、右課税標準額に税率一〇〇分の三(法五九四条)を乗じて得た金額(一四五九万六八〇〇円)から不動産取得税の課税標準となるべき価格(一億七八一六万三〇〇〇円)に一〇〇分の四を乗じて得た額(七一二万六五二〇円)を控除した額(法二〇条の四の二第三項により一〇〇円未満の端数切捨て)を税額(七四七万〇二〇〇円)としてそれぞれ決定するとともに、法六〇九条二項に基づき決定により納付すべき税額(ただし、法二〇条の四の二第二項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた七四七万円)に一〇〇分の一五の割合を乗じて計算した金額に相当する不申告加算金(一一二万〇五〇〇円)を徴収する旨を決定し(以下、右各決定を併せて「本件各処分」という。)、その旨の特別土地保有税決定通知書を原告に送付した。

7  原告は、同年五月一八日、東京都知事に対し、本件各処分を不服として審査請求をしたが、東京都知事は、平成一一年八月一八日、これを棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同月二五日、原告に送達された。

8  なお、原告が、本件土地上に建築する建物について建築確認を受けたのは、平成九年一二月五日であり、本件土地上に別紙物件目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築完成させたのは、平成一〇年一一月五日である。

三  当事者双方の主張

(原告の主張)

1 原告は、平成九年二月二八日、恒久的な建物であるセレモニーホール(葬祭等の集会場)建設の目的で、本件土地を取得し、直ちに建築設計に着手して、担当官庁である葛飾区と事前協議等を重ね、同年六月二三日、建築確認申請をして、同年一二月五日、建築確認を受け、その後直ちに本件建物の建築に着手し、平成一〇年一一月五日、これを完成させた。

ところで、特別土地保有税の立法趣旨は、土地投機の防止とその有効利用の促進にあるところ、原告の本件土地の取得は、直ちに建物建築のために諸手続をして本件建物を完成していることから明らかであるとおり、土地投機のためでなく、また、本件土地上に、地域的に必要な、葬祭等の集会場を建築したことは、土地の有効利用の促進に合致しているものである。

被告は、本件各処分に当たって、特別土地保有税の立法趣旨に合致しているかどうかを実質的に判断すべきであり、右のように、原告の本件土地の取得は、実質的に特別土地保有税の立法趣旨に反しているものではないから、本件各処分をすることはできないものである。

しかるに、単に形式的な「不申告」を理由として、本件各処分をしたことは、特別土地保有税の立法趣旨に反し、権利の濫用というべきであるから、違法である。

2 仮に、平成九年八月三一日が、申告書の提出期限及び申告した税額の納付期限であるとしても、原告は、本件土地の取得後、直ちに本件建物を建築すべく建築確認等の手続をしており、通常ならば、約三箇月で建築確認が受けられ、右期限までに、本件建物の着工ができたものであり、そうであれば、特別土地保有税を課されることはなかったものである。

右建築確認が遅れたのは、原告の責任によるものではなく、葛飾区の責任によるものといえる。

被告は、葛飾区と同じ行政機関であるから、建築確認が通常よりもかなりの時間を要する場合には、そのことにより特別土地保有税の負担という不利益が原告にかからないように配慮すべき義務がある。

右行政機関の建築確認の遅れによる特別土地保有税の負担を、原告に転嫁すべきではないから、本件各処分は違法である。

(被告の主張)

1 原告は、本件基準日(平成九年七月一日)現在、葛飾区内に基準日前一年以内に土地の合計面積が一〇〇〇平方メートル以上である一〇〇五・三三平方メートルの本件土地を取得していることから、特別土地保有税の申告及び納付の義務を負うべきところ、被告が必要な書類等を送付し、数回にわたり申告を促したにもかかわらず申告をしなかった。

そこで、被告は、法の定める算出方法に従い課税標準額及び税額を決定するとともに、右決定により納付すべき税額に一〇〇分の一五の割合を乗じて計算した金額に相当する不申告加算金を徴収すべきものとして本件各処分をしたものであるから、本件各処分は適法である。

2 原告の主張に対する反論

法は、特別土地保有税の納税義務者は、法所定の期日までに、所定の申告書を市町村長に提出すべきものと定め、当該申告書の提出がなされない場合には、市町村長は、申告すべき課税標準額及び税額を決定するものとされ、右決定があった場合には、不申告加算金を徴収しなければならないとされているのであるから、本件各処分は、法に適合するものであって、これが特別土地保有税の立法趣旨に反し、権利の濫用といわれる理由はない。

四  争点

以上によれば、本件争点は、次のとおりである。

1  本件各処分が、特別土地保有税の立法趣旨に反し、権利の濫用として違法となるか否か。(争点1)

2  本件各処分が、行政機関による建築確認の遅れを、特別土地保有税の負担として原告に転嫁した点において違法であるか否か。(争点2)

第三争点に対する判断

一  争点1について

原告は、本件土地の取得は、投機のためでなく、土地の有効利用の促進に合致しており、被告は、本件各処分に当たって、特別土地保有税の立法趣旨に合致しているか否かを実質的に判断すべきであると主張する。

そこで、検討するに、法五八五条以下に規定される特別土地保有税は、土地保有に伴う管理費用の増大を通じて、土地の投機的取得を抑制し、あわせて土地の有効利用と供給を促進することを目的とするものであり、右の目的にかんがみ、有効利用に供される土地その他一定の土地については、前記のとおり非課税ないし免除の規定が設けられているところである。そして、法は、前記のとおり、特別土地保有税の免除については、特別土地保有税審議会の議を経た上での市町村長の認定(法六〇三条の二)や、市町村長の認定及び確認(法六〇一条、六〇二条)を要するものと定めている。

そうすると、法は、特別土地保有税の目的とする土地投機の抑制と土地の有効利用については、法の定める非課税ないし免除の規定を通じて調和を図ろうとしたものであると解すべきであり、右の非課税や免除の要件を満足せず、あるいは、免除についての所定の手続を履践していない場合に、課税庁が特別土地保有税の課税処分に当たって、法所定の課税要件のほかに、当該土地取得が特別土地保有税の立法趣旨に合致しているか否かを実質的に判断して、これを課税の消極要件として考慮することは許されないというべきである。

そして、本件においては、前記のとおり、原告が、葛飾区内に基準日(平成九年七月一日)前一年以内に土地の合計面積が一〇〇〇平方メートル以上の本件土地を取得したにもかかわらず、納期限の同年八月三一日までに、特別土地保有税の申告をしなかったものであり、また、弁論の全趣旨によれば、本件土地の取得については、法の定める非課税事由に該当せず、特別土地保有税の免除について法所定の手続がとられたものではないことが認められるから、本件各処分は、被告が、法六〇六条二項、五九三条一項、五九四条に従って課税標準額及び税額を決定するとともに、法六〇九条二項に基づき不申告加算金額を決定したものとして適法であり、これが権利の濫用であるとの原告の主張には理由がない。

二  争点2について

原告は、申告書の提出期限を徒過したのは、葛飾区における建築確認が遅滞したためであり、これにより特別土地保有税の負担という不利益を原告に転嫁すべきではないと主張する。

しかし、右建築確認の遅れのために本件建物建築着工が遅れ、そのために法六〇三条の二第二項の免除認定の申請をすることができなかったとしても、本件各処分は、前記のとおり法の正当な解釈に基づくものであり、租税法律主義の原則の下においては、右事情を課税の消極要件として考慮することは許されないというべきであるから、原告の右主張は採用できない。

三  よって、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

<以下省略>

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